多要素認証は突破される。ならば、どう備えるか? 第5弾(最終章)
- chief7610
- 6月16日
- 読了時間: 5分
更新日:6月18日
業界提言編
日本発のセキュリティイノベーション ~国際競争力を持つフィンテック基盤への提言~
第1弾:問題提起編
第2弾:業界動向分析編
第3弾:ユーザー体験重視編
第4弾:技術哲学編
第5弾:業界提言編
皆さん、こんにちは。今日は少し大きな話をさせていただきたいと思います。日本の金融業界、そしてIT技術立国としての日本の未来について考えてみましょう。
日本の金融セキュリティが抱える課題
正直に申し上げて、日本の金融セキュリティは国際的に見て少し遅れを取っています。
例えば、ヨーロッパではPSD2(決済サービス指令)により、早くからオープンバンキングとセキュリティの両立が進んでいます。アメリカでは、GAFAを中心とした巨大テック企業が金融サービスに参入し、新しいセキュリティ技術を次々と実装しています。
一方、日本は規制の関係もあり、どうしても保守的になりがちです。安全を重視するのは良いことですが、イノベーションが停滞してしまうケースが多い気がします。
スタートアップが先行できる理由
でも、これは逆にチャンスでもあります。大手金融機関は既存システムとの兼ね合いがあり、抜本的な変更は困難です。しかし、スタートアップなら、最初から新しいアーキテクチャで設計できます。
私たちのような小さな会社が、五反田アクセラレーションプログラム2023に採択されたのも、この「身軽さ」があるからです。大手ができないことを、小さな会社が先にやる。これは技術革新の常道ですね。今回のマルウェア対策のアイディアは、Fin/Sum2025でピッチを披露できる企業に選ばれたアイディア(KYC済みノンカストディアルウォレットをリテール決済に使用する)をもとにしています。この発表の機会が無ければ、発想できませんでした。その意味では、日本経済新聞社と金融庁に感謝です。
日本の隠れた強み
実は、日本には他国にない強みがあります。
1. ICカード技術の蓄積
Suica、PASMO、nanaco...日本人ほどICカードに慣れ親しんだ国民はいません。私も過去にSSFC(Shared Security Formats Cooperation)というアライアンスで、1枚の非接触ICカードで様々なシステムを使える規格の策定に関わりました。この経験とノウハウは、世界に誇れるものです。
2. 高い現金依存度
「現金大国」と言われることが多い日本ですが、これは逆に「セキュリティへの意識の高さ」の表れかもしれません。デジタル決済に移行するときも、相当な安全性を求められます。
3. 高齢社会の課題解決
世界で最も早く高齢社会を迎えた日本で、高齢者でも安心して使えるセキュリティを実現できれば、これは確実にグローバル展開できます。
アクセラレーションプログラムの意義
私たちが参加した品川区五反田バレーアクセラレーションプログラムでは、多くの学びがありました。特に印象的だったのは、「技術だけでは成功しない」ということです。
どんなに優れた技術でも、市場に受け入れられ、実際に社会問題を解決しなければ意味がありません。アクセラレーションプログラムは、技術を社会実装するための貴重な機会でした。
規制当局との建設的な対話
金融庁をはじめとする規制当局も、イノベーションの重要性を理解しています。「規制のサンドボックス」制度や「フィンテック実証実験ハブ」など、新しい技術を安全に試せる環境を整備してくれています。
私たちのような技術者は、「規制があるから何もできない」と嘆くのではなく、規制当局と建設的な対話を重ねて、共に新しい枠組みを作っていく必要があります。
標準化戦略の重要性
技術で世界をリードするためには、標準化戦略が欠かせません。
日本は過去、技術的には優秀でも、標準化で後手に回った経験が多々あります。ガラパゴス化を避けるためにも、最初からグローバル標準を意識した設計が必要です。
幸い、今回私たちが考えているアプローチは、既存の国際標準(DID、暗号技術、ICカード技術など)と親和性が高く、グローバル展開できる可能性が高いと思います。
エコシステムの構築
一社だけでは、大きな変革は起こせません。証券会社、銀行、決済事業者、技術ベンダー、規制当局、学術機関が連携して、新しいエコシステムを構築する必要があります。
私の経験では、こうしたエコシステム構築で最も重要なのは、関与した企業、団体にメリットがある事です。次に大事な点は、みんなでパイを大きくする発想が重要だと考えています。
人材育成への投資
IT技術立国の復活には、人材育成が不可欠です。特にセキュリティ分野では、理論だけでなく実践的なスキルを持った人材が広く求められます。
大学との連携、インターンシップの充実、エンジニアの処遇改善など、業界全体で取り組むべき課題は多くあります。さらには、シニアの有効活用も必要だと考えます。
グローバル展開の可能性
日本で培った技術とノウハウは、必ずグローバル市場でも通用します。特に、「高齢者、シニアでも使える安全なフィンテック」は、世界中で求められているソリューションです。
韓国、台湾、シンガポールなど、日本に近い市場環境を持つ国々への展開から始めて、徐々に欧米市場にも挑戦していきたいですね。
IT技術者として想う事
「技術で社会を少しずつ良くする」──このような気持ちを持ち続けて、チャレンジできる世の中になり、若い人からシニアの人まで多くの起業家がチャレンジして、その結果、多くのユニコーン企業が出てくると、日本はきっともっと良い国になるでしょう。チャレンジして、失敗しても再就職できる社会が必要ですが、これも今後整うと思います。なぜなら起業家は自ら課題を見つけ自ら動く人だからです。日本の製造業は頑張ってくれています。IT業界も頑張りたいものです。
第1弾:問題提起編
第2弾:業界動向分析編
第3弾:ユーザー体験重視編
第4弾:技術哲学編
第5弾:業界提言編
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